来た経路を戻り、裏口からハイヤーに乗り込めば、ほっと安堵したような顔に出迎えられる。

「よかった。そろそろ様子を窺いに行こうかと思っていたところでした。」
「ああ、悪かった。思ったより時間が掛かった。」

母と話し終え、部屋を出た頃には一時間ほどが経過していた。
まるで予想していなかった再会と、打ち明けられた真実に、自分でも気がつかぬうちに緊張していたのか、車が走り出したと同時に安堵の溜息が出た。
今さら何を言われたところで、自分の生き方を変えるつもりはない。でも、今日を境に両親への気持ちに変化があったことは確かだ。父には僅かながら同情の念を抱いたし(どんな事情であれ不倫を肯定する気にはならないが)、二度と会わないだろうと思っていた母には、生きているうちにまた会ってもいいような気がしていた。

母の俺に託した願いが、俺の記憶違いだったことには驚いたが、それほどの衝撃はない。

“この国の一番になる”

それは、俺の中で今も揺るぎない決意だ。
そのためには、何としてでもこの汚職疑惑を晴らさねばならない。
国民の前で全てを正直に話し、証拠を公開し、身の潔白を訴えることが一番の方策だ。

しかし、それでは。
隠していた真依子の過去を自ら世間に晒すことになる。
契約結婚について疑われるリスクよりも、心配するのは真依子への負担だ。

何か別の方策はないものかと頭を捻ってみたもののすぐに良案が思いつくわけもない。
まずは、報道されている内容を正確に把握しようと、カーナビの画面をテレビ放送に切り替えるよう頼む。
この時間は、ちょうど昼の情報番組が始まる頃だ。