ハロー、マイファーストレディ!


「ごめんなさい……私にとやかく言う権利はもう無いわよね。でも、これだけは信じて。あなたの幸せをいつでも願っているわ。」
「それならば、もう十分に幸せですので、ご心配なく。それと、もう二度と会うこともないかと思うので一応言っておきます。」

おそらく、これが、母との本当の別れだ。
あの日、幼いなりに跡取りとしての自覚があった俺は、何一つ母に言葉を掛けることが出来なかった。
本当は、行かないでと追いすがったり、連れて行ってと泣きわめいたりしたかった。それでも、俺はそうしなかったのだ。
そして、そのことを少しも後悔していない。今なら、あの家に俺を産んで残してくれたことに素直に感謝できる気がした。

「産んでもらったことには感謝しています。あと、あなたが離婚するときに親父に突きつけた条件のお陰で、腹違いの兄弟ができて肩身の狭い思いをすることもなかった。」

俺がこんなことを言うのは意外だったのか、母が驚いたように目を見開いた。

「政治の道に進むと決めたのは自分ですが、きっかけを与えたのはお母さん、あなただ。」

あの日、母に一番になりなさいと言ってもらえなかったら、俺は果たして自分の存在意義を上手に見いだせただろうか。

「あなたがあの日望んだように、どんな手を使ってでも、俺はこの国の一番になるつもりです。」

最後は、清々しいまでに言い切った。
窮地に立たされている俺が、こんなに自信満々に宣言するのは、滑稽かもしれない。

俺の言葉を聞いた母の顔に、はっきりと困惑の色が浮かぶ。
捨てた息子にこんなことを言われても困るかと、喋りすぎたことを後悔する。
それでも、言ってしまったことは仕方ないと思いながら、帰るための一歩を踏み出した。

「待って……」

か細い声で俺を引き留めた母は、フルフルと首を振りながら、必死に尋ねてもいない弁明をし始めた。

「そんな意味じゃないの。一番になりなさいと、あなたに言ったのは。離婚の時の条件も、そんなつもりじゃなかったの。」

そんな、余計な話など聞かずに立ち去るべきだと、思ってみても足はそれ以上動かなかった。

そして、それから30分以上、俺は立ち尽くしたまま、母の打ち明け話に耳を傾けることになる。