ハロー、マイファーストレディ!


「さしずめ、硴野の狙いは次の総裁選でしのう?息子に自分を支持するよう説得しろとでも言われましたか?いや、説得というよりは、脅迫かな?」

俺の予想が的中したのか、母は顔を歪めて黙り込んだ。この場合の沈黙は、肯定したも同然だ。

「お母さんも、ここに脅されて連れて来られたんでしょう?すぐに息子に支持を表明させなければ、夫の地位も危ういぞ、と。」
「違うわ、硴野先生がすぐに自分の派閥に入れば、あなたを守ることが出来るからと……」
「ふっ、そんな言葉に騙されて来たんですか?残念ながら、丁重にお断りします。今回のスキャンダルは、おそらく裏で硴野が糸を引いている。今詳しく調べさせていますが、ほぼ間違いありません。」
「そんな……」
「俺は汚い金など、一度も受け取ったことはありません。多少人前で猫を被ってはいますが、硴野のように法を犯したりしたことは、ありませんよ。」

言い切りながらも、母に対して特に弁解する必要のないことに気がつく。俺は、これ以上詳しい話をするのをやめた。

「まあ、あなたに信じてもらえなくても、構いません。とにかく、硴野の派閥に入る気もなければ、総裁選で支持もしません。それで、あなたのご主人が硴野に嫌がらせをされるのなら、どうぞ好きなだけ俺を恨んでください。」

もう話すことはないとばかりに、立ち上がる。金輪際会うことはないだろう、母の顔を最後に見下ろした。
母の目には、どうしてか再び涙が溜まっていた。

「実の息子を信じない親なんて居るもんですか。」

潤んだ瞳が、まっすぐに俺を捉える。
感動的な言葉のはずなのに、まるで俺の心に響かなかった。
今更、どうして安い家族ごっこなど始めなければならないのかと、俺は内心溜息をつく。

「30年も前に、縁を切った息子ですよ。しかも、離婚するほど憎かった男の子どもだ。」
「違うわ、違うの……」
「いいや、違わない。あなたは過去と決別して、幸せな家庭を築いている。酷い目に遭わされた親父を憎んでるはずだし、当然、大切なのは今の家族だ。」
「そんなことないわ、ずっと私はあなたのことを……」
「だとしても、俺にとってはどうでもいい話です。」

最後は突き放すように、冷たく言い放った。心の中に冷えた風が通り抜ける。