「で、わざわざ後輩に夜勤のシフト代わってもらったの?」
平日夕方のカフェは客もまばらで、ゆっくり話をするにはもってこいだ。
心地よい風が吹くオープンテラス席で、カフェオレを飲みながら私が話をしているのは高校時代からの親友だ。
大木瞳(おおきひとみ)は、名前通りの大きなぱっちり二重の瞳を細めて、呆れたような声を上げた。
「うん、後輩の子がちょうど急遽合コン誘われてるところ見かけて。代わってあげるよって言ったらものすごく有り難がられた。」
「アンタ、私との約束忘れてたでしょ。」
「そんなことないよ~。」
「どこがよ、電話したらまだベッドの中だったくせに。」
都内の有名サロンでヘアメイクとして働いている彼女は、定休日の今日が休み。
元々は私も休みの予定だったからランチをする約束になっていたのだ。
しかし、予定を変更したため、私は夜勤明けの非番。
忘れていた訳では無いけれど、あまりの眠気にほんの一時間くらい仮眠するつもりが、少しだけ寝過ごしてしまった。
結果、怒濤のような着信で叩き起こされて、シャワーも身支度も驚異の速さで済ませ、瞳が待つカフェへと滑り込んだ。
「で、メイクも日焼け止め程度のファンデと眉毛描いただけな訳ね。」
「スミマセン…」
メイクだけではない。服装も、ファストファッションのワンピースに薄手のシャツをはおっただけ。
いくら、近所のカフェとはいえ、あまりにも手を抜きすぎだ。
と、まあ、せっかくの休日をこんな風に棒に振ったのは。
他でもない、例の男のせいだ。



