ハロー、マイファーストレディ!


「高柳です。私の方は何時でも結構です。」

黒幕は、やはり硴野か。
そうではないかと疑ってはいたが、証拠や確信はなかった。
俺としては、探る手間が省けて万々歳だ。
相手も手早く片付けてしまいたいのだろう。特に詳しい会話を交わすこともないまま、約束の時間と場所だけを決めると、すぐに電話は切れた。

「大川、車を。」
「坊ちゃ……」
「大丈夫だ。ちゃんと話を付けてくる。」
「では、私も一緒に……」
「それは、困る。誰が留守を預かるんだ?さっきから電話も鳴りっぱなしだし、おそらくもうすぐ特捜部が来るぞ。」

事務所中ひっくり返されても不正の証拠など一つも出てくるはずもないが、彼らは律儀にやってくるだろう。
逆に肝心のテープを調べてもらいたいくらいだが、雑音が多くまるで会話が聞き取れないそれは、おそらくダミーだろう。
ひょっとしたら、ありもしない証拠を挙げるようにと、硴野が手を回しているかもしれない。
何しろ相手は火のない所に煙を立てようと必死なのだ。

「でもっ……」
「そう心配するな。そんなに心配されるほど、俺はまだ親父と比べて頼りないか?」

苦笑混じりに尋ねれば、真面目な秘書は慌てて首を振る。

「そんな、征太郎先生は、もう十分に……」
「だったら、早く車を。もう透を無事に送り届けた頃だろう?」

大川の俺を見つめる目は、僅かに潤んでいた。実の父よりも、ずっと父親らしい存在。本物の父子の絆など知らぬはずなのに、不思議と大川と俺を繋いでいるものは、それに限りなく近いと感じている。

だからこそ、ここは俺に一人で行かせてほしい。父ならば、成長した我が子を時には崖から突き落とすことも必要だ。

俺は、きっと這い上がってみせる。
そう思いを込めて、大川を見つめ返した。

「はい、ただ今。車はすぐに呼び戻します。その間に、あらゆる事態の想定をして、策を講じましょう。こういうことは先手先手で、動けるうちに手を尽くしておきませんと。」

俺の真意が通じたのか、大川は柔和な笑みを浮かべてから、いつもの仕事モードへと戻る。俺が大川に大きな信頼を寄せているのは、どんなときも決して動じずに完璧な仕事をするからだ。人間臭い一面を見せる癖に、昔から感情に流されることがない。
テキパキと事務所中を指示を出しながら動き回る姿を横目に、俺は事務所の裏口から迎えに来た車に慌てて乗り込んだ。