「俺も何か…」
手伝おうと言い出す透を、大川が制する。
「今、谷崎君は動かない方がいい。こういう時は、じっと耐えて。渦中の秘書が動けば、余計な詮索をされるだけです。」
「でも……」
大川の言うように、打開策が見つかるまでは、透をなるべくマスコミから遠ざけた方がいいだろう。このままでは、真依子の父親の二の舞になる。透に妻子は居ないが、谷崎の実家にマスコミが押しかける可能性もある。
そして何より、事情を知った谷崎の親族が、透を放って置くとは思えない。ようやく抜け出した窮屈な家に、無理矢理連れ戻されることは、透にとっては絶望でしかない。事態が収拾するまでは、何とか所在不明で押し通さねばならない。
「いいから。お前は、女の所にでも雲隠れしてろ。行くところは、沢山あるだろう?」
とにかく、透を安全な場所へと移さねば、そう思って提案してみたものの、透本人によりそれはあっさりと却下される。
「残念ながら、こういう肝心な時に匿ってくれるような殊勝な女とは付き合ってない。」
「一人くらいいないのか?信頼できる女は。」
念を押すように、もう一度透を見つめ返す。すると、今度は歯切れの悪い返事が返ってきた。
「信頼、か。一人だけ……いなくもない。」
「居るんだな?そこにしばらく隠れていろ。いいか?俺がいいと言うまで、絶対にでてくるな。」
歯切れは悪くとも、透が信頼できると口にしたのなら、それは確かなのだろう。人を見る目だけは、昔から間違いはないのだ。
それがどこかは聞かずに、透の判断に任せて送り出す。
「大人しく待ってろ、すぐに迎えに行ってやる。」
「なるべく早くしてくれよ。俺が、退屈が一番苦手なの知ってるだろ?」
「一番苦手なのは、女の嫉妬じゃなかったのか?」
素直に大人しく待っていると言えない透を茶化して、緊張感もなく二人で笑い合う。それでも、最後はちゃんと透の目をまっすぐに見つめた。
「透」
どうしても言っておかなければならないことを口にするため、俺は親友の名前を呼ぶ。
「間違っても、変な気は起こすなよ。」
真依子の父の選択が間違っていたなどと、今更言うつもりはない。
人には、それぞれに正義がある。自分の正しいと思ったことこそが、正義なのだ。
それでも。
あの時、もしも俺ならば、村雲にその道を選ばせなかっただろうと思う。
生きて、この国のために。
責任の名の下に命を絶つことよりも、彼には出来ることが沢山あったはずだ。
今の、透のように。
「ああ、大丈夫だ。俺も、高柳征太郎を低俗な政治家にするつもりはないからな。」
まっすぐに俺を見つめ返した透は、いつもの敏腕秘書の顔にすっかりと戻っていた。



