『お前の秘書なってやってもいいぞ。死ぬまでの退屈しのぎにはちょうどよさそうだ。』
学生時代、秘書にならないかと誘った俺に、透が返した答えは、そんな投げやりな一言で。目には人生に対する諦めや、空しさが浮かんでいた。
『代議士の秘書なら、谷崎の家も文句ないだろう。』
透を長年に渡り苦しめてきたのは複雑極まりない家庭環境だった。どうすることも出来ない呪縛から解き放たれるためには、おそらく様々なものを諦めるほかに無かったのだろう。
いつからか、透は目先の快楽や利益にしか興味を示さなくなった。将来性の高い仕事にも、幸せな家庭にも興味は無い。優秀な頭は俺の周りの厄介事を片付けるためだけに、達者な口は遊ぶ女を口説くためだけに使われてきた。
でも、一方で俺は知っているのだ。
この男が、まだ完全に人生を捨てた訳ではないということを。
心のどこかで、俺以上に俺に期待しているのだということを。
『退屈な人生だったなんて、言えなくしてやるよ。』
ただの退屈しのぎだと言った透に、若き日の俺が返したのはそんな一言で。それを聞いて、透はまた呆れた顔でフッと小さく笑って言った。
『せいぜい楽しみにしてる。』
『ああ、お前が死ぬ間際に本当に良い人生だったって俺の手を握るのが目に浮かぶな。』
『ジジイになっても、一緒に居る前提かよ。』
笑いながら、眩しそうに目を細めて、夕日を見つめる透の瞳からは、いつもの絶望の色が消えていた。
思えば、その時からすでに。
俺はこの親友と運命を共にすると決めたのだ。



