その日は、ザワザワとした外の物音で目を覚ました。
時刻は七時の少し前。今日は仕事は休みの予定だが、あまり遅くまで寝ていても勿体ないと身体を起こす。

私が異変に気がついたのは、今日は洗濯もしなくてはと思い、天気を確かめようとカーテンを開けた瞬間だった。
アパート前の道路に並んで、私の部屋の窓を見上げているのは、腕章を付けた大勢の記者達だった。中には重そうなテレビカメラを抱えている人影も見える。

咄嗟にカーテンを閉めて、テレビをつけると、タイミング良く朝の情報番組が始まった。トップニュースで伝えられた週刊誌のスクープの見出しに、思わず目を疑って、その場にへたりと座り込んだ。


“政界のプリンスの汚い手口”
“秘書が受け取った新薬承認のための黒いカネ”
“独占告白「私は高柳征太郎に騙された!」”

チャンネルを変えると、独占取材と銘打って、顔を隠した状態でインタビューを受ける男の姿が映し出される。
顔は分からないが、男の肉声と思しき声には聞き覚えがあった。
私に、復讐を持ちかけてきた、あの男だ。

何が起きたか分からずに、混乱する頭を落ち着かせて、昨日からマナーモードのまま放っておいたスマホを手に取る。
十数件もの不在着信を目にした瞬間に、ディスプレイが着信の画面に切り替わった。

“着信 高柳征太郎”

無我夢中で通話に切り替えると、すっかり聞き慣れた、低音でありながら聞き取りやすい声が耳に響く。

「……真依子、すまない。」
「何?どういうこと?何があったの?」
「大丈夫だ。報道されている内容は、事実無根だ。」
「でも、今テレビに映った人って……」
「ああ、あの男だ。罠だと気づかずに透が接触したところを写真に撮られた。でも、金なんて受け取ってない。硴野の不正の証拠だと言って封筒を渡してきたんだ。」