いつのまにか焼きそばの屋台の列を減らすことに一生懸命になっていたら、いつのまにか予定していた時刻を過ぎていた。

「真依子さん、お疲れ様です。皆さん、なかなかの好感触でしたよ。選挙の時もこの調子でお願いしますね。」

大川さんから、お褒めの言葉までいただいてしまった。
何が良かったのか、まるで分からなかったが、ほっと胸をなで下ろす。

とにかく私は望まれた役割を、ただ果たせばいいだけ。
それが、征太郎と交わした契約なのだ。


……とは、いうものの。
果たして、どこまでか契約のうちなのか。

「お疲れさん。」
「……オツカレサマデシタ。」

軽く合わせたワイングラスから、チリンと軽快な音が鳴る。
ソース会社のキャラクター入りのエプロンを脱いだ数時間後、どういうわけか私は海辺のレストランで婚約者とワイングラスを傾けていた。

あの後、東京へと戻る車の中で「寄りたい場所がある」と言われ、返事をする間もなくここへ連れてこられた。
帰る途中に食事休憩でも取るのかと、一人納得して車を降りれば、運転していた谷崎さんは「じゃあ、ごゆっくり」と私と征太郎だけを残して、車で走り去っていく。

「えっ、ちょっと……」
「真依子、こっちだ。」

征太郎は唖然として立ち尽くす私を、しっかりとエスコートして、店内奥の半テラス席へと座らせる。慣れた様子で、お店のスタッフと少し会話を交わすと、すぐにワインと皿に山盛りにされた魚介類が運ばれてきた。どうやらテーブルの上に置かれたグリルで焼くらしい。豪華な海鮮バーベキューだ。