ハロー、マイファーストレディ!

ロビーまで出たところで、透が声を掛ける。

「おい、征太郎。少し落ち着けよ。」
「落ち着いている。」
「どこがだ。真依子ちゃんが怯えてるぞ。」

そう言われて、横に目を向ければ、真依子が少し上がった息を整えながら、不安げな瞳でこちらを見ていた。
どうやら、苛つくあまり相当な早さで歩いていたらしい。

「巧己がお前にちょっかいを掛けるのは、いつものことだろう?」
「ああ、よくも毎回飽きないものだ。」
「お前のことが好きだから、虐めるんだ。」
「まるで、小学生男子だな。」
「分かってるなら、そろそろ友達にしてやれよ。あいつとはどうせこの先も長い付き合いになるんだ。」
「馬鹿を言え。あいつだけは絶対に無理だ。」
「まだ“あのこと”根に持ってるのか?」
「ああ、忘れる訳がない。今まであれ以上の屈辱を受けたことがないからな。」
「大人げないな。小学生はどっちだよ。」

透との会話に、忘れていた昔の嫌な記憶が蘇る。ますます眉を顰めた俺に向かって、透は呆れた顔でカードキーを差し出した。

「上に、部屋を取ってある。そんな怖い顔して歩いてたら、周りに変に思われる。少し休んでから帰るぞ。」

俺にカードキーを手渡すと、透は真依子にも優しく声を掛けた。

「真依子ちゃんの着替えも部屋に置いてあるから、その窮屈なスーツ、着替えておいで。」

俺は、ため息を一つついてから、掴んでいた真依子の腕を離して、軽く肩を抱く。
そのまま、もやもやとした気分と一緒に、エレベーターへと乗り込んだ。