男の言うことは事実だった。
俺と長谷川、ついでに言えば透も、地元では名門とされている高校の出身だ。
真面目な生徒が多い中で、政治家の息子と地元企業の御曹司は常に注目を浴びる存在で、自分以外に目立つ存在がいるのが気にくわなかったのか、この男は何かにつけて俺を敵視していた。
成績だけでなく、教師からの信頼や、生徒会の役職、いかに女にモテるかまで張り合われて、当時から俺はうんざりしていた。
だからと言って、邪険に扱うこともできない。元々、長谷川家は祖父の代からうちの後援会に名を連ねている有力な支援者だ。俺にしてみれば、手も足も出せない状態で、紳士的に受け流す以外の選択肢はない。
その態度がますます気に入らなかったのか、こうして20年近くが経った今でも、顔を合わす度に俺を挑発してくるのだ。
「申し訳有りません。公私の区別ははっきりとさせたい質なので。」
「相変わらず、真面目だねえ。それとも、澄ました顔で俺のこと馬鹿にしてる?」
「滅相もございません。」
「その冷静さが、ムカつくよね。」
いつもの通りに軽く受け流した俺に、長谷川は吐き捨てるように言うと、もう一度壁際で呆然と立ち尽くす真依子に視線を向ける。
思わず、俺は身構えた。
「真依子さん、またお会いできると嬉しいな。」
おそらくこの世の女という女をこぞって虜にしてしまうような、柔らかな笑みを浮かべながら、滑らかな動きで真依子の右手を取り、手の甲に軽く口づけた。
その一連の動作に、真依子は為すすべもなく固まり、俺は咄嗟に足を踏み出していた。
長谷川の手首を掴んで、真依子から引きはがす。
真依子を背に庇うように、二人の間に割って入った時には、俺は我を忘れて奴を睨みつけていた。



