ハロー、マイファーストレディ!


朝川と別れて、真依子と透の姿を探す。そのころには、帰ろうとする客も増え始め、会場を出てロビーで挨拶を交わしている人混みを見渡した。
すぐにロビーの隅で他の議員秘書と話し込んでいる透を見つけたものの、その隣に真依子の姿は無かった。
透の近くまで歩み寄ると、それに気が付いた透が会話を切り上げる。

「真依子は?」
「化粧室だ。俺が、話をしている間に化粧直しに行くと。」
「一人で行かせたのか?」
「おいおい、いくら何でも過保護じゃないか?真依子ちゃんも子供じゃない。マスコミのあしらい方もだいぶ板に付いてきたし。」
「まあ、女子トイレの前で待ってる訳にもいかないしな。」
「そろそろ終わる頃だと思うから、迎えに行くか。」
「ああ。」

変な記者に絡まれたりしていないといいが、と思いつつ化粧室の通路の方へ向かえば、ロビーから死角になっているスペースから男女の揉めるようなやりとりが聞こえてきた。

「とりあえず、連絡先交換しよう。」
「あの、私、困ります。こんな…」
「説明したでしょ、僕は高柳君の同級生だって。彼の過去のこと、色々知りたくない?ほら、昔の女のハナシとかさ。」
「いや、ちょっと…すみません、離してください!」

自分の名前と聞き覚えの有る声に思わず足を止め覗き込んだ先にあったのは、一瞬で俺を不機嫌にさせるような光景だった。

流行のブルー系のグレースーツを、嫌みな程に着こなしている男。その長身から伸びる、やたらと長い腕が捕らえているのは、紛れもない俺の婚約者だった。
嫌がって逃げ出そうとした彼女の腕を掴んで無理矢理振り向かせたような体勢。先ほど聞こえてきた会話も、この状況にぴったりと当てはまった。

わざわざ言葉を交わす必要もなく、透と俺は迷うことなくその場に踏み込む。
俺たちの気配を感じてか、男が顔をこちらへと向けた。その瞬間、きれいに整った男の顔がつまらなさそうに歪んだ。

「なんだ、もう見つかっちゃった。」

そう呟いて、その男は真依子の腕を放す。突然自由になった身体は二、三歩よろけて、すぐ背後にあった壁に受け止められた。