ハロー、マイファーストレディ!

「僕と君の間でつまらない駆け引きは止めよう。君に応援してもらえれば、僕としては非常に助かる。僕は自分に足りないものをちゃんと分かっているつもりだからね。」
「ご謙遜を。私の力など、大したことはありません。」
「謙遜はどちらかな。僕は君の人気だけじゃなく、実力についても十分理解しているつもりだ。だから、もし僕と手を組んでくれるのなら、僕は君のことをただのお飾りで終わらせるつもりはないよ。それ相応の仕事は、ちゃんとしてもらう。」

朝川のほんのり色づいていた頬からは赤みがすっと引いていき、鋭い視線が俺を捕らえる。
やはり、この男も政治家なのだ。

いち早く支持を表明すれば、俺にそれ相応のポストを用意するということだ。
決断を急かされるのは好きではないが、どうせ朝川に乗るなら早期の決断が得策だろう。

「わかりました。考えておきます。」
「ああ、連絡を待っているよ。」

少し考えを巡らせてから、微笑みながらそう答えれば、朝川も穏和な表情を見せた。ふっと小さな深呼吸をしてから、確認事項を口にした。

「先生のお話というのも、この件でしたか?」
「…いや、違う。」

てっきりそうに違いないと思って尋ねたのに、思いがけず深刻な顔で否定されて咄嗟に身構える。
そんな俺の胸の内を知ってか知らずか、朝川は声を潜めながら耳元で早口にささやいた。

「最近、硴野先生の秘書が、君の身辺を調査してる。うちの秘書も君の秘書時代のことについて尋ねられたらしい。大方、何とか君を取り込もうと考えているのだと思うが、少し注意しておいた方がいい。」

不意に出た「硴野」の名に、少しばかり動揺したものの、探りを入れられたのが真依子の件ではなかったことに安堵した。俺の事であれば、どれだけ過去に遡ろうとも、疚しいことはない。

「ご忠告ありがとうございます。警戒するように秘書にも伝えます。」

俺は動揺を隠すように微笑み、すぐさま簡潔に礼を述べると、朝川と連れ立って控え室を出た。