七年振りに会った叔父夫妻は、ただただ私との再会を喜んでくれた。
会う度に辛そうな顔をする私の事を思って、あえて距離をとったものの、ずっと私の事を気にかけてくれていたらしい。
祖母の死後、数年経ってから私がひとりになってしまったことを人伝に聞いて、慌てて私の事を探したものの、すでに大学も卒業し、祖母の団地から引っ越していた私を探し出すことは出来なかったという。
「どこかで幸せに暮らしているのなら、それでいいと思っていたんだ。きっと、いつかは会いに来てくれると信じていたから。」
父にそっくりなその顔を見ても、もう胸は痛まなかった。
「ごめんなさい。ずっと連絡しづらくって。」
「いいんだ。これからは、時々元気な顔を見せてもらえれば。それにしても、驚いたよ。急に、高柳さんから連絡をいただいた時は。」
思わず谷崎さんの顔を見れば、彼はその言葉を肯定するように頷いた。
「報道は知っていたけれど、まさか相手が真依子ちゃんだなんて思いもしなかったから。結婚するんだってね。おめでとう。」
叔父の笑顔につられて、私は微笑みながら「ありがとう」と返す。胸はチクリと痛んだが、たとえ叔父であっても本当の事を打ち明ける訳にはいかない。
「あの真依子ちゃんが、政治家の奥さんになるなんて…不思議な縁だね。」
叔父はぽつりと呟くと、少し安堵したように息を漏らした。
自ら政治家の妻になるということは、過去のことを完全に吹っ切っている証拠。そんな風に感じているのかもしれない。
実際はその逆だなんて、思いもしないだろう。
しばらく、近況や仕事の話、昔の思い出話など、積もる話に花が咲いた。
叔母には、征太郎との馴れ初めについて聞かれたが、私は用意されている回答を忠実に口にした。
目を輝かせて「素敵ね」と言う叔母に、私も少し照れたように微笑んだ。叔母は昔からとても素直な人だ。きっと私の話を100パーセント信じているに違いない。
谷崎さんは、気を遣って席を外していたが、一時間ほどで戻ってきて、我々を上階のレストランへと案内した。
「個室にランチをご用意していますので、続きはそちらでどうぞ。」
ちょうどお昼だったので、その言葉に素直に甘えることにする。叔父夫婦とも、すっかり会えなかった日々が嘘のように、打ち解けていた。
多少強引だが、こうして会えたことに感謝していた。先に婚約を発表してからでは、会うのはさらに気まずかっただろうと思う。事前にちゃんと報告が出来てよかった。
レストランの個室までは、どうやって手配したのか、誰とも顔を合わすことはなかった。
敏腕秘書の手腕に密かに感嘆しながら、開かれた個室の扉の中を覗く。
大きく開かれた窓には、清々しいほどに青い空が広がり、地上から伸びるビル群が小さく見えた。
窓の前に立つ人影がゆっくりとこちらを振り返る。
その人物は、バックの青い空に負けないくらいの爽やかさで、にこりと笑って、こちらへ歩み寄ってきた。
「今日はわざわざお越しいただきありがとうございます。先日は突然失礼いたしました。初めてお目にかかります
、高柳征太郎です。」
その顔は、出会って以来、少しもブレることのない、政治家・高柳征太郎の完璧な外面だった。



