ハロー、マイファーストレディ!


「ははっ、趣味が将棋ってのは、また一段と渋いな。」

議員会館のソファに腰を沈めて、透は俺と真依子のプロフィールを並べて笑った。

「“共通の趣味”が必要なんだろ?文句言うなよ。」
「文句なんて言ってない。面白いセンスだと絶賛しただけだ。」
「馬鹿にするな。かなり苦労したんだ。」

俺は、ため息混じりに、ジャケットを脱いでネクタイを緩める。

このところ、東京と地元を行ったり来たりしている。昼間は東京で仕事をして、夜は出来るだけ地元事務所に帰る。
真依子と過ごす時間を作るためだった。
やはり、婚約者らしく見えるようにするには、お互いに二人で居ることに慣れることが一番の近道だと考えたのだ。
国会会期中には珍しいことだが、地元が近場だからこそ、なせる技でもあった。

そして、今日は党青年部の勉強会のため、早朝から東京へと舞い戻ってきた。
政策について語るのは、たとえ何時間になろうとも、全く苦ではない。
しかし、若手議員の発言に目を光らせるお目付役に、何時間も監視され続けるのには正直疲れた。

奴らの目的は、若手議員の失言をたしなめることだけではない。
おそらく、それぞれの派閥のトップから、うまく取り込めそうな若手議員の目星をつけてくるように言われているはずだ。
俺はそのハイエナのような視線に気が付いて、会の終了とともに一目散に会場を後にした。
結果として、誰にも声を掛ける隙を与えずに、無事に逃げ帰った。
今度の総裁選でどの候補を支持するかは、これからの俺の立ち位置を決める大事な選択だ。
もう少し、ゆっくりと情勢を見極めたかった。