ハロー、マイファーストレディ!


彼女の上半身を起こしてから、もう一度その細い身体を軽く抱けば、抵抗することもなく、するりと腕の中に収まった。

「最初から、大人しくそうしろよ。」
「そんなの無理よ。」
「じゃあ、会う度に練習するまでだ。」
「毎回?」
「ああ、毎回だ。時間がないんだ。来月には婚約を発表する。」
「ちょっと、早すぎない?」
「こういうのは、タイミングが大事なんだ。国会の閉会は再来週の予定で、三ヶ月後には総裁選がある。俺は出馬しなくても、党内は大騒ぎだ。とても、俺の婚約どころじゃない。結果によっては、大幅な内閣改造もありえる。タイミングを逸すると、あっという間に一年が過ぎる。」
「そういうもん?」
「そういうもんだ。」

会話を交わしながら、身体の熱をクールダウンする。
真依子の顔にも次第に、いつものようなクールな表情が戻ってくる。

完全に抱擁を解くと、俺は彼女と視線を合わせて微笑んで見せた。

「この調子で頼むよ、婚約者殿。」

そう言いながら手を差し出せば、真依子はあっさりとその求めに応じた。
固い握手という行為には、これっぽっちも色気はなかったのに。

「鋭意努力いたします。」

真依子が真摯な眼差しで答えた姿に、俺は思わず息を飲んだ。