ハロー、マイファーストレディ!


また、だ。
ツンとすましているように見えて、実は彼女は動揺している。

圧倒的に、男に対する免疫がない。
恋愛してこなかったのだから、当たり前だ。
しかし、彼女はいつもその動揺を必死に隠してきたのだろう。
近寄りがたいオーラを出して、顔色を変えることなく、男たちを威嚇する。

しかし、隠しきれない動揺がチラリと瞳の奥から顔を出す。
それに、俺は自然と気が付けるようなっていた。
そうさせるのは、政治家ゆえの観察眼か、単に俺が彼女に慣れた所為なのか。
後者なら問題ないが、前者であれば大問題だ。
これから、数多の政治家たちの前で仲むつまじい夫婦を演じるのだ。
特に、俺の存在を快く思っていない奴らは特に注意深く彼女を観察するだろう。
潰せる不安要素は、全てキレイに潰しきらねばならない。

「情報を共有しても、その免疫のなさは致命的だな。」

なかなか視線を合わせようとしない真依子の頬に手を添えて、こちらに顔と視線を向けさせる。
途端に、彼女の頬は赤く染まった。
彼女の盾があっけなく取り払われたのを知り、俺は危機感を覚える。

「ちょっと、離してよ。」
「じゃあ、こっちを向けよ。俺と視線をちゃんと合わせろ。そんなことも出来ないようじゃ、この先困る。これじゃあ、人前に出た時、とても婚約者同士には見えない。」

ぴしゃりと言い放つと、今度は彼女の方から助けを求めるように視線を合わせてきた。
さすがに、このままではまずいと感じたようだ。

「…どうすればいいの?」
「練習、あるのみだ。」

俺はニヤリと笑って、彼女の手を取った。たちまちに、真依子は身体をこわばらせる。