ハロー、マイファーストレディ!

自然と顔が緩むのを必死に我慢していると、目の前にもう一つ浅鉢が並べられた。
そして、これ見よがしに真依子が言う。

「今日は征太郎さんのお好きな、揚げ出し豆腐ですよ。」


……は?

これ以上ないというくらいに、にっこり笑みを作って差し出されたものの、それは特別に俺の好物という訳でもない。
しかし、否定は許されそうにない真依子の迫力に、俺は「ありがとう」と笑って受け取った。

特に嫌いと言うわけでもないから、まあいいか。

何かやむを得ない事情で俺の好物を勝手に決めるに至ったのだろうと察する。

「先生は、和食がお好きなんですよね。さっき、真依子さんにお聞きしました。それならそうと言って下さればよかったのに。地元での会食はなるべく日本料理に致しますね。といっても、真依子さんは和食がお得意のようですから、外では和食以外がいいですかね~。」

続けて、また橋元が明るく話しかけてきた。
もちろん、真依子に和食好きだと言った覚えはない。そして、真依子の得意料理についても、まるで知らないことに気が付く。

これは、まずいな。

笑顔のまま、こちらにプレッシャーを掛けてくる真依子と目を合わせて、無言で頷きあう。
こうして、俺は早急に互いの基本的な情報について、すり合わせる必要性を強く感じたのだった。