「残された私は必死でユウを育てて…。ユウが物心ついた頃に、お父さんがいないことを不思議に思う時期が来て…。私はできるだけユウを傷付けたくなくて、ユウが生まれてすぐに離婚したんだって、嘘をついた…。でも、ユウが高校生になる少し前に…生まれたばかりのユウを抱いた母親と彼が写ってる写真と母子手帳を見つけてしまったのね…。もう嘘はつけないって、本当のことを話したんだけど、あの子は拍子抜けするくらい、何事もなかったように笑って、そうか、って…。」

「そんなことが…。」

「あの子の中には、生まれたばかりの自分を捨てた母親に対しての思いとか…いろいろあると思う。最初についた嘘も多分、自分は父親に捨てられたんだって、そういう思いがあったと思う…。」

「………。」

直子の口から初めて聞く事実に、レナはいつかユウの言ったことを思い出していた。

(付き合い始めた頃…ユウ、私に嫌われるんじゃないかって不安に思ってたって、こんな自分はいつか私に愛想尽かされるんじゃないかって…。)

「私は私なりにユウを大事に思ってきたし、血の繋がりはなくても、本当の息子だと思って育てて来たわ。でもユウは、そのことがあってから、自分の思ってること、何も話さなくなったの…。私がドイツに行く時も、ドイツで再婚する時も、いいんじゃないかって…。自分は一人でも大丈夫だから、って…。」

(そう言えば、マユが言ってた…。ユウは、自分の思ってることをなかなか言えなくて、どんどん悪い方へ悪い方へ考えて、自分の中でどうにもならなくなってしまう癖があるって…。)

「ユウの記事、読んだの。あの子は愛に飢えてたのかなぁって…。もっとわかりやすくユウを目一杯愛してあげれば良かった…。」

「ユウは、直子さんのことを大切に思ってると思います…。私、ずっとユウを見てきたから、それだけはわかる…。」

「レナちゃん…。」

直子は目にうっすらと涙を浮かべ、レナの手を握りしめた。

「私のことはもう…信じてもらえないかも知れないけど…。血の繋がりもないのに赤ちゃんの頃から育ててくれた直子さんには、感謝も信頼もしてると思う…。」

「レナちゃん…ありがとう…。」

レナは、直子の手を握り返すと、リサの目を見て静かに言った。

「リサ…私、あのドレス着て…ショーに出てもいいかな?」

「…もちろんよ。」

「本当はユウの隣であのドレスを着たかったけど…もうそれは一生できないかも知れないから…。せめて、リサにだけは見てもらいたい。」