リサはしばらくの沈黙の後、また静かに話し出す。

「帰って来るのが当たり前だと思っていたのに、突然大切な人を3人も一度に亡くしてしまって…。言いたかったことも、してあげたかったことも、まだたくさんあったのに…もう、帰らぬ人になってしまったの…。せめて朝寝過ごさず行ってらっしゃいのキスをして、愛してるって言えば良かったって、ずっと悔やんで…。だからね、レナ。レナがユウくんに伝えたいことがあるのなら、伝えておかないと一生後悔するかも知れないって、私は思う。」

「うん…。」

「私にはレナがいたから、ここまで頑張って来れた。ケンが私のために残してくれた保険金とケンの両親の残してくれた遺産で会社を立ち上げて、ケンが残してくれたレナを守るために必死で頑張って…。レナには寂しい思いもさせたけど…レナには私しかいないんだからって、私にもしものことがあった時には私の築いてきた物すべてをレナに残せるようにって、つらい時も歯を食いしばって、ここまで来たの。」

「うん…。」

レナは目に涙を浮かべてうなずいた。

いつもリサが家にいないことが寂しいと思った時もあった。

それでも自分はリサの大きな愛情に包まれていたのだとレナは思った。

「私はね、大切な人に着てもらいたいと思って洋服を作ってる。だから、私の作った洋服は、レナが着て初めて完成するのよ。」

リサは柔らかく微笑むと、レナの肩を優しく抱きしめた。

「あのウエディングドレスは、レナが着てくれたらいいなと思って作った。今度、ブライダルファッションショーに出展しないかって声をかけてもらってね。レナが人前に立つことが苦手なのはわかってるから、まだ返事はしてないけど…でも、このドレスを着てレナが笑ってくれたらいいなと思いながら作ったの。もし、レナが嫌なら、私は無理強いする気はないわ。」

「うん…。」

「でも私はやっぱり、一度は見てみたいな。ウエディングドレスを着て笑うレナは、キレイでしょうね…。」

「少し、考えさせて…。」

「そうね…考えてみて。レナの気持ちが、私には一番大事だから。」


その夜、レナはリサのベッドで一緒に眠った。

リサと一緒に寝るのは何年ぶりだろう?

レナは温かいリサの体温を感じながら眠りに落ちる前に、誰かのために着ることはないかも知れないけど、リサのためにそのドレスを着るのも悪くないのかも…と思った。