「レナ、もう寝る?一杯どう?」

「ん…もらおうかな。」

リビングのソファーでぼんやりしていたレナはお風呂上がりのリサからビールを受け取った。

二人でソファーに並んで座り、ビールを飲む。

「あーっ、おいしい!!」

リサは勢いよくビールを飲むと満足げに笑う。

「一緒に飲むの、久し振りだね。夕飯も久し振りだったし。」

そう言ってレナはゆっくりとビールを飲む。

「そうねぇ、私も忙しいし。」

「うん…。」

わずかな沈黙の後、リサが静かに話し始めた。

「あのね、レナ…。大事な人に伝えたいことは…今、伝えておかないと一生後悔するかも知れない…。」

「えっ?!」

唐突なリサの言葉にレナは困惑した。

「あなたの父親の、ケンの話…私、したことないでしょ?」

「うん…。」

リサは缶ビールを持つ手元を眺めながら懐かしむような目をして笑う。

「ケンはね、父親が日本人で、母親がアメリカ人。私とは逆ね。日本で生まれ育って、大学生の時に留学生としてアメリカに…ロサンゼルスに来て…私と知り合ったの。留学期間を終えて大学を卒業した後、結婚しようって、私を迎えに来てくれてね…。その2年後にレナが生まれて…レナが2歳になる頃に、日本にいるケンの両親のそばで暮らすことになって…それであのマンションに住み始めたのね。」

「うん…。」

「ケンが外に働きに出掛けて、私は家でレナの服を作ったり…レナと二人で彼の帰りを待って…。休みの日にはケンの両親と食事をしたり、家族で出掛けたり…楽しかったわ…。」

リサは遠い日の記憶を愛しげに語る。

「レナがもうすぐ4歳になる頃、ケンの誕生日の2日前だったわ…。夜中急に彼に服を作ってあげたいと思い立って、夜遅くまで作業に取り掛かってたら、翌朝うっかり寝過ごしてしまったのね。私が目覚めた頃には、彼は私を起こさず仕事に行ってしまった後だった…。その日は金曜日で、夜に彼の両親をうちに招いて誕生日のお祝いをしようって約束してたのね。」

そこまで話すと、リサは少し悲しげにうつむいた。

「私はプレゼントしようと洋服を仕上げて…たくさんの料理を作って、彼の帰りを待ってたの…。でも…仕事帰りに、ケンが両親を乗せた車でうちに向かっている途中で、居眠り運転のトラックに正面衝突される事故が起こって…ケンも、両親も、亡くなってしまった…。」