翌朝。

マユと一緒に出掛けたレナは、タクシーで一度家に戻った。

(ユウ、まだ寝てるだろうな。)

鍵を開けて静かに部屋に入ると、ユウはリビングのソファーでうたた寝をしていた。

(ユウの顔…久し振りに見る気がするな…。)

レナはユウを起こさないようにそっと近付いて、見慣れたはずの愛しい人の寝顔を見つめる。

(ユウは、私のこと…もう嫌いになっちゃったのかな…。こんなに近くにいるのに、ユウがすごく遠い…。)

レナの目に映るユウの寝顔がにじんで歪んだ。

(こんなに好きなのに…。)

レナの目からは涙がこぼれ落ち、疲れのにじむその頬を伝って行く。

さっきまではそこになかった人の気配に、ユウはうっすらと目を開ける。

(レナ…泣いてる?)

傍らで静かに涙を流すレナを、ユウは今すぐ抱きしめたいと思った。

でも、今レナを泣かせているのは、他でもない自分自身だ。

(オレにはそんな資格ない…。)

ユウは泣いているレナから目をそむけるようにして立ち上がり、自分の部屋へ戻ろうとした。

(ユウ…!!)

レナは寂しさややるせなさ、胸に溢れるたくさんの気持ちが抑えられなくなり、ユウの背中に抱きついて、細い腕にギュッと力を込める。

(レナ…。)

ユウは背中にレナの悲しみを感じながら立ち尽くす。

「ユウ…どうして何も言ってくれないの?私たち、ずっと一緒にいたのに…ユウがつらい時、私はそばにいちゃいけないの?」

「……。」

何も答えないユウにレナの胸は激しく痛んだ。

「…何も、言ってくれないんだね…。」

レナはユウを抱きしめる腕をそっとほどくと、静かに呟く。

「ユウはもう…私のこと…嫌いになっちゃったの…?」

レナの悲しそうな声が、ユウの心をギュッとしめつけた。

(違う…!!オレは…!!)

ユウが振り返ると、自分の部屋へ戻るレナの背中が小さく震えていた。

(ごめん、レナ…。)


ユウは自分の部屋へ戻ると、ベッドに身を投げ出して、静かに目を閉じる。

(あんなこと言わせたかったんじゃない…。)

本当は、泣いているレナを強く抱きしめて、レナが好きだと言いたかった。

でも、ユウには自信がなかった。

自分と一緒にいることが、レナにとって本当に幸せだろうか?

自分は本当にこの先ずっと、レナを愛し続けることが、できるだろうか?

(だって、オレは……オレも、一人の人を愛し続けることができないかも知れない…。)