レナはお風呂に浸かりながら、なんとなくさっきの歌番組で、若いアイドルの女の子が、ユウをじっと見つめていたことを思い出す。

(いやいや、まさかね…。)

前にグラビア撮影の仕事でアヤに言われた“色気ゼロ”と言う言葉が、不意に脳裏をよぎる。

“ユウを満足させてあげられなさそう”とも言われたが、結局、色気ってなんだろう?

胸の大きさではグラドルに勝てる訳もないが、それ以外に、どうすれば色気が出るのだろう?

(時々ユウが、私のことを色っぽいとか言うけど…一体どこが?って感じだし…。やっぱりもう少し色っぽくなるように努力した方がいいのかな?それで結局、ユウを満足させるって…どういうこと?)

ユウとは一緒にいて幸せだし、本当に大事にしてくれていると思う。

(私は、ユウといてすごく満たされてるし、結婚までできて…満足してると思う…。)

アヤの言った言葉は、そういう意味だろうか?

(ユウは…?ユウは、私で満足してる?)



レナがお風呂から上がり、今日撮影した写真のデータをパソコンで確認していると、ユウが帰って来た。

レナはユウの帰りが嬉しくて、玄関まで走って行ってユウを出迎える。

「おかえりなさい。」

レナがユウに抱きつくと、ユウが嬉しそうに笑ってレナを抱きしめる。

「ただいま。」

玄関先で二人は軽いキスを交わした。

「今日の晩御飯、何?」

「クリームシチュー。すぐに用意するね。」

「うん。」

レナはキッチンでシチューを温め、フランスパンを切って焼く。

熱々のシチューとフランスパンをお皿に盛り付け、冷蔵庫で冷やしておいたサラダと一緒にテーブルに並べた。

「ハイ、どうぞ。」

「いただきます。」

ユウが美味しそうにシチューを食べている様子を、レナはユウの向かいに座って眺めている。

「おいしい?」

「うん、うまいよ。」

「良かった。」

何気ないユウの一言が嬉しくて、レナは満面の笑みを浮かべる。

「どうかした?」

「ん?」

「さっきから、じっと見てるから。」

「うん…。ユウが帰って来て嬉しいなって。」

「えっ?!」

「さっきの歌番組、見てたよ。」

「…見てたんだ…。」

ユウは急に照れ臭そうにしている。

「カッコ良かったよ。」

「…ありがと。」

「でも、あんなカワイイ顔してたら、また他の女の子に狙われちゃうぞ。」

「えぇっ?!」

ユウはレナの言葉に驚いて声を上げる。

「…ユウの照れた顔、かわいかったし。」

「…なんだそれ…。」

照れながらユウは、じっと見つめるレナから視線をそらして、シチューを口に運ぶ。