「なんで、何も言わずにいなくなったの?」

「耐えられなくなって…。」

「何に?」

「全部だよ。レナを傷付けたことも、謝れなかったことも…そんなめちゃくちゃなことしてる自分をレナに見られることも…すぐ近くにいるのに、レナのそばにいられないことも…つらくて、苦しくて、息をするのもしんどくなって…それならもう2度とレナに会えないくらいに遠くへ行ってしまおうって…。ちょうど、ヒロさんから、ロンドンへ行かないかって誘われてたから…ついて行こうと思って…。」

「全部処分したのに、なんであの指輪だけは、私の元に残したの…?」

ユウは、タバコに火をつけて、苦い思い出をかみしめるように、ゆっくりと煙を吐き出した。

「好きだとも、ごめんとも、サヨナラも…何も言えなかった代わりにと思って…。レナにもらった大事なものだったけど、持ってたら忘れられないから捨てようかと思ったのに…やっぱり、レナが好きだったから捨てられなくて…。本当はオレのこと、レナに忘れて欲しくなかったのかも…。」

「ユウのこと、私が忘れるわけないのに…。」

「うん…。」

しばらく、二人で黙って水割りを飲んだ。

レナはユウの目をじっと覗き込む。

「まだ何か…?」

次は何を聞かれるのかと、ユウは内心ビクビクしながらレナを見る。

「10年ぶりに再会した時…ユウ、女の子とキスしてた。」

「うん…。」

(レナ…もう勘弁して…。)

「あの時…ショックだった。誰とでもするんだって…。私があんなに悩んだのはなんだったんだろうって…。」

「ごめん…。」

「本当にユウなのか信じられなくて…。その後ユウ、私のこと、避けてたでしょ?」

「10年ぶりに会ったのに、よりによってあんなところ見られたって思ったら…つい…。」

「だよね…。私もまともにユウの顔、見られなかったもん。まさかあんなところに居合わせちゃうなんてって…。」

レナはグラスの水割りを飲み干すと、少し赤い顔でユウを睨みつける。

「もう、あんなユウは…見たくないよ…。」

「うん…もう絶対しない。」

「ホントに?」

「うん、ホントに、絶対しない。」

レナはユウにもたれかかりながら、静かに笑みを浮かべた。

「これからは…私だけの、ユウでいてね…。」

「うん…。」

ユウはレナの肩を抱いて、優しく髪を撫でる。

「今のオレがどれくらいレナを好きか、知りたい?」

「うん…。」

「オレも、レナが好きなのはオレだけだって、もっと知りたいな…。」

ユウはレナの頬を両手で包むと、親指でレナの唇を優しくなぞる。

「うん…。いいよ…。」

ユウはレナの唇に、優しく唇を重ねた。

「ユウ…もっと…して…。」

ほろ酔い加減のレナが、ユウにキスをねだる。

「レナ…かわいい…。」

ユウの唇がレナを求めると、レナはそれに応えるように腕をユウの首に回した。

「ユウ…大好き…。」

「オレも、レナが大好きだよ…。」

そして二人は夜が更けるまで、何度も互いを求め合った。

それは、胸に秘めていた不安や、聞きたくても聞けなかった過去のことも忘れるくらい、甘くて幸せなひとときだった。