ユウは結婚情報誌をめくりながら考えていた。

じっくり読むほどに、何か不思議な違和感を覚えるのは何故だろう?

そこに広がる世界は、自分が思っていたものと少し違う気がした。

講読者のほとんどが女性なのか、結婚を控えて一番幸せな時期だと言われるはずの新婦たちの愚痴が炸裂し尽きない不満が吹き荒れている。

(結婚前からこんなんで、結婚生活はうまくやってけるのか…?)

披露宴の準備で両家の価値観の違いから意見が食い違い、険悪なムードになって破談になったとか…。

婚約前は優しかった新郎の母親が、結婚準備を始めた途端に細かくあれこれと干渉するようになったとか…。

披露宴の席順や余興の順番を決めるときに、一流企業の重役をしている新郎の父親から、家柄や身分などで見下されているのがわかって婚約解消したとか…。

(こんな失敗例ばっかり読んで、誰が幸せになるんだ?!そんなによくあることなのか?)

ユウは思わず結婚情報誌を閉じて投げ出すと、タバコに火をつけため息混じりに煙を吐き出した。

(結婚って、思ってたよりずっとめんどくさいもんなんだな…。本当はオレ、こういうのはどうだっていいんだよな…。)

レナが指輪を喜んでくれたことは嬉しかった。

リサの作ったドレスを着たいと言ったことも、それを着て隣を歩いてくれるんだと思うと、本当に嬉しかった。

(それ以外、何が必要なんだろ…。披露宴の生い立ちビデオとか…二人のなれそめ紹介とか…全然要らないんだけどな。)

灰皿の上でタバコの灰を落としながら、ユウは思わず唸り声をあげた。

(一体、誰のためにやるんだ?)

ユウがタバコを灰皿の上で揉み消すと、不意に肩の後ろから細い腕が伸びて来て、耳元で尋ねる優しい声がした。

「何、難しい顔してるの?」

「わっ!レナ、いつの間に…。」

ユウは驚いて声をあげた。

「ただいまって言ったよ?聞こえなかった?」

「ごめん、聞こえてなかった。おかえり。」

「ただいま。」

レナはにこっと笑うと、ユウの頬に口付けて、更に自分の頬をくっつけた。

「レナのほっぺた、冷たい!」

「外、寒かったもん。」

ユウはレナの手を引いて、こたつに入っていた自分の膝の上に座らせると、レナの肩や背中にこたつ布団を掛ける。

「あったかい?」

「うん。」

「唇もあっためようかな。」

「うん。」

ユウはレナの冷えた唇を、自分の唇で温めるように優しくキスをする。

「あったまった?」

「んー…まだ…。」

「じゃあもっと?」

「うん…。」

二人は微笑み合うと、また何度も唇を重ねた。

長いキスの後、レナは幸せそうに笑って、ユウにギュッと抱きつく。

「ユウ。」

「ん?」

「私、今、すごく幸せ。」

「ホント?」

「うん。ユウと、こうして一緒にいられるから。」

「オレも。レナと一緒にいると幸せ。」

ユウがそう言うと、レナはユウを抱きしめながら、静かに言った。

「ユウ、無理はしないでね。」