カッターナイフで傷つけられた方の頬が、ほんの少しだけ凹んでいる。


あれだけの液体が流れ出て他の部分に変化が見られないということは、皮膚の下は固いもので覆われているみたいだ。


俺は這うようにしてベッドの方へと逃げた。


薫子は楽しむように俺を追いかける。


「ねぇ、あたしは殺せてもあの女は殺せないの?」


「……当たり前だろ……」


自分でも情けないくらいに震える声で返事をした。


薫子から笑顔が消え、怒りに満ちた顔になる。


「そんなのおかしいわ」


「おかしくなんかない……! 元々お前は結音の代わりだったんだ! だから、俺にとってお前が一番になることなんて、絶対にない!」


そう言いきった瞬間、俺の体は廊下へと吹き飛ばされていた。


ドアはキッチリ閉めていたハズだが、そのドアごと吹き飛ばされてしまったようだ。