ようやく呼吸が整って来た時、薫子はカッターの刃を俺に向けて突き出してきていた。


俺はそれを睨みつけるようにして見返す。


「あたしにそっくりな女の子なんて、必要ないでしょう?」


薫子がそう言い、ゆっくり近づいてくる。


背中に壁が当たっている俺はこれ以上逃げられない。


隙をついて薫子の横を走り、部屋を出るくらいしか道はなかった。


でも、俺はそうしなかった。


一旦ここを離れたって結局同じことだ。


だって俺と薫子は同じ家の中で暮らしているのだから。


「ねぇ、そうでしょう?」


「結音は薫子に似ているワケじゃない。薫子が結音に似ているんだ」


俺はハッキリとした口調で言った。


薫子の表情がみるみるうちに険しくなる。


「違う!!」


叫び、カッターを振りまわす。