諒は俺の存在に気づいていない。


俺はそっと柱の陰に身を隠した。


諒はお見舞いの花を持っていて、結音の病室のドアを躊躇することなくノックした。


しばらくして中から結音の母親が顔を出す。


娘の看病のためか白髪が増えて、少し老けたように見える。


「あら諒君、いつも来てくれてありがとう」


嬉しそうにそう言う結音の母親に、俺は自分の耳を疑った。


『いつも来てくれてありがとう』……?


諒はいつも1人でここへ来ていたのか?


俺にも美奈にもなにも言わず、たった1人で。


諒は結音の母親と親しそうに会話をしながら病室へと姿を消した。