「そう? じゃぁ今日は燈里に任せてお母さん早く寝ちゃおうかな」


「あぁ。おやすみ」


「おやすみ」


軽く手を振ってリビングを出る母親。


その後ろ姿を見送ってから、俺はコップを洗い始めた。


コップ一つを洗うのに時間はかからない。


それなのに、俺は同じところを何度も何度も洗い直し、スポンジに洗剤を付け直して丁寧に丁寧に作業を進めた。


これが最後の手伝いになるかもしれない。


そんな思いを込めて。


丹念に磨かれたコップは曇り1つなく、ピカピカに輝き始めた。


蛍光灯の光を反射し、まるで高級なガラス細工のようになっている。


俺はそこまでやって時計に視線を向けた。


あれからまだ15分くらいしか経過していない。


やっぱり、いくら丹念に洗ってもコップ1つでは時間はもたない。