それなのに、人形を手放せないなんておかしいと思う。


でも。


あの人形は結音にそっくりなんだ。


話せない結音と話ができる。


手をつないで歩く事もできる。


抱きしめることも、キスすることも。


一度知ったそれらを今さら簡単に手放すなんて、俺にはできない。


それこそ、最初からそんな甘い蜜を知らなければ俺は今でも平和に暮らせていたのに。


でも、もうダメだ。


知ってしまった。


甘い甘い蜜の味を。


心が満たされていく感覚を。