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足早に家に戻ると、やはり薫子は出迎えてくれなかった。


けれど俺の考えを誰かに聞いてほしくて、そんな事は気にもせず自室へ向かう。


「薫子?」


呼びながらドアを開けると、いつも通り部屋の隅で体育座りをしている薫子が目に入った。


「薫子、聞いてくれ。今日すごい噂話しを聞いて来たんだ!」


カバンをベッドへ投げ出して早口に言う。


俺の声に反応して顔を上げる薫子。


その頬には涙の筋がいくつもあり、目には大粒の涙が浮いている。


俺は言葉を切り、「どうした?」と、声のトーンを落として尋ねた。


薫子はパッと立ち上がり、抱きついてくる。


フワッと甘い香りに包まれて、俺は腐敗していく薫子を想像する。


その想像を打ち消すように俺は薫子を抱きしめ返した。