薫子は故障ではなかった。


そのことで安心したものの、どうすれば薫子の涙を止めてやれるのか、俺はまた頭を悩ませていた。


人間と人形という隔たりを感じるようになった薫子は、俺の部屋にこもるようになっていた。


最近ではずっと隣にいた薫子がいないと、どこか妙な感じがする。


けれど、両親はその状況にホッとしている様子だった。


薫子との距離がまた離れた事で、薫子への文句も数が減った。


「はよ!」


教室へ向かう廊下の途中でポンッと肩をたたかれて、俺は振り向いた。


諒だ。


「おはよ、諒」


「燈里、この前かりた昼飯代、返すよ」


そう言い、諒はポケットから財布を取り出した。