暖簾をくぐって声を掛けるとまず顔を出した女将さんと主人に年の瀬の挨拶をする。
そして呼んでもらった一人の奉公人。
もう客もいないからと上げてもらった部屋の襖が勢いよく開いて、それはやって来た。
「烝さんっ」
「おー、元気そーやな」
盆に湯飲みを乗せた夕美は相変わらずの笑顔。
「おーじゃないですよっ、始めの頃に一回ちょろっと顔出しただけで全然来ないんだもん」
だったのにそれは一瞬で口を尖らせる。
「やぁまぁその……すまん」
まぁあの三日間のお陰で暫くどっちゃり仕事が溜まっとったんやけど。
そんあとは屯所内の仕事ばっかやったし……。
ま、そんなんただの言い訳やもんな。
「てかその長着はどしてん?」
俺はそんなん持たせてへんで?
苦笑いで頬を掻いた俺はさっと話題をすり替える。
「あっ、これは旦那さまからもう年越しだからって頂いたんですけど」
「あぁお仕着せか」
「お仕着せ?」
「せや、四季に合わせて主人が奉公人に着物を支給するんや」
けども毎回やないし、どの店もって訳やない。両者の関係も大事や。
そこからわかること。
「可愛がってもろてるみたいやな」
「まぁ……よくしてもらってます」
照れたように笑うその顔から、これの此処での様子がみてとれた。
この様子やと他の女中さんらとの仲も心配なさそうやな。
少しだけ気掛かりだったことも杞憂に終わり、ほっとして茶を啜る。
「そうそう、この前りんちゃんも来てくれましたよっ」
……り?
「りんちゃんてまさか……」
「あ、林五郎さんです」
またえらいかいらし名前に。


