【完】山崎さんちのすすむくん




大晦日を向かえ(旧暦では一ヶ月は三十日まで)、町もバタバタと忙しない様相を呈していた。


長屋の軒先にはしめ縄飾りや門松が置かれ、商店では暖簾を新しいものへと付け替えている。


梅や南天の鉢植え、一升徳利なんかを片手に携えた人々が通りを行き交っていて。


中には掛け金の取り立てであろう、帳簿を眺め歩く丁稚の姿もちらほら見える。


そんな人々を視界に入れ、俺は薬箱を背に担ぎ通りを歩いていた。


中に入っているのは勿論石田散薬、


……ではない。


彼のお方の御生家秘伝の薬については俺は何も言うまい。


これは俺の生家で扱う薬である。


現在は鍼医の父が昔取った杵柄だ。



年の瀬と言うこともあって、俺の本業は薬売りなのではないかと錯覚するくらい今日はよく声をかけられる。


怪我や打ち身は浪士の情報に繋がることもある、のだが。




「切り傷によう効くんはおまへんか?」

「へぇ、こちらに。どないされました?」

「うちのかいしょなしに茶碗放ってやったら額がぱっくりいってしもたんよーうふふ」

「……お大事に」





「こんなんに効くやつもあるんやろか?」

「こりゃまたどえらいあおたんこさえましたなぁ。どないしはったんですか?」

「や、ちぃとばかし急いとったら凍った橋の上でころんひっくり返ってもぉてん、我ながら間抜けやわぁー」

「……それはまた災難で」





「す、すんまへん……腹……下してもたんやけ、どっ」

「……こちらで」





大人しゅう廁にでも籠っとけや!


包みを受けとるや否や、よろよろと裏路地へと消えていく男の背に内心密やかに毒づく。


……は! いかん、俺としたことがあまりに情報がなさ過ぎてつい。


うん、下り腹は辛いよな。


独り身やったら誰も薬買うてくれんもんな。


うんうんと顎を擦ってまた歩き出す。


時刻はもう八ツ刻(2時前くらい)に差し掛かる頃。


辺りも一層人で賑わい始める頃合いだ。



ちと顔でも出しとくか。