すっかり覚えた太夫の部屋に文を結んだ包みを投げ入れ、俺は通りを歩き出した。
雪駄を履いているとはいえ、白に染まった屋根上を進むのはやはり滑りやすいし、何より目立つ。
せやから雪は嫌いやねん。
暗闇から降り注ぐ儚い結晶に溜め息をついて、静かに足を早めた。
そんな寄り道があり、漸く帰り着いた裏路地。
傘に積もった雪を払い、戸を開ける。
……ひっ!?
すると仄かな有明行灯の明かりの中に浮かび上がる影が目に入った。
「……夕美?」
かいまきにくるまり、ちょこんと座るその姿は物音に起きた、という訳でもなさそうだ。
「どしてん、眠れんのか?」
畳に腰掛け、雪駄の紐をほどいていく。
「あの」
……ああ。
遠慮がちに紡がれた声に、何となく言わんとすることに予想がついた。
部屋へ上がった俺は夕美の前に腰を下ろし微かに微笑む。
「ん?」
「その、何か色々……、ごめんなさい」
それを言う為に起きて待っとったんやな。
申し訳なさそうにしょぼんと眉を下げる夕美に、痛みと温かさが入り交じり、つい苦笑いが浮かぶ。
「お前さんが気にすることやない。言うてへんかったんは俺やしな」
話す機会は何度もあった。
それでも言えんかったんは……俺の弱さ故や。
立ち上がったつもりでも、塞がったつもりでも、心の底では今もまだあいつを求めていて。
死んだと、口にしたくなかった。
「まぁ、俺らには子もいてへんかったさかいな、今はすっかり独り身のただのもてへん男やもめでおうとるし」
そんな弱い己を自嘲するように、へらりと笑う。
例え子宝に恵まれなくともあいつがいれば良かった。
やっと、京での暮らしも板についてきたとこやったのに。
袖の中で握り締めた掌に爪が食い込み、そこで漸くはっとした。
あかん、また俺は……。
覆水盆に返らず、や。
今の俺は新選組諸士調役兼監察方山崎烝、なんやから──
そう自ら戒めていれば、ふと気付く。


