【完】山崎さんちのすすむくん



どくん


心の臓が冷たく跳ねた。


伸ばしていた手が一瞬止まる。


「……あ」


それは口にした本人も同じだったらしい。


俺と同じ奥二重の瞳を僅かに見開いて手を止めた。


「へー林五郎さんってお姉さんがいてるんですねー」


何も知らない夕美だけが変わらぬ空気で言葉を紡ぐ。


このあとに続くであろう言葉に俺は思わず身を固くした。



「なら烝さんも知ってるんですか?」



林五郎の気配が揺れる。


俺は乾いた喉を潤すように僅かに唾を飲み込んで、静かに口を開いた。


「ああ、よぅ知っとるで」


金平を見詰めたまま、目を細める。


「へーどんな人なんですか?」

「せやなぁ、ちっこくて、細っこくて、いっつもニコニコしてて、しっかりしとる癖にたまーに抜けとってなぁ。余所見しては包丁で指切ってみたりするよな奴や」


あれの姿を脳裏に浮かべ、奥底にある記憶を呼び起こす。


久々に色がついた思い出の数々にゆるりと頬が緩んで、


腹の底がじくじくと疼く。


「へぇー可愛らしい人なんですねっ。遠くにお嫁に行っちゃったんですか?」


別に隠す必要なんてあらへん。


ただ、事実を言うたらええだけや。




「いや、死んだ」



淡々と。



「……え?」

「この春にな。林五郎の、一つ歳上の姉貴で」


もう、説明しているのか、独り言なのか分からない。


流石に夕美も気配を変えた。


それでも、一度紡いだ言の葉たちは止まることなく舌の上を滑り落ちていく。



「名は琴尾。俺の、嫁はんや」