傘の雪を払い、狭い入り口をくぐり中へと入れば小間物屋特有の甘やかな香りが鼻をつく。
未だにちらつく雪の所為か、薄暗い店内には俺たちの他に数人の客がいるばかりだ。
「……まだかいなぁ」
嬉々たる様子で小物に見いる夕美につい何か買ってやろうかと言ってしまった事がそもそもの始まり。
同じような店を連れ回されることもう三軒目だ。
女っちゅうんは何でまぁこーゆーことにこうも元気になれるんやろか……。
「えーだって店によって置いてあるのが違うし!」
「そりゃ作り手がちゃうんやから当たり前やん」
「そっか! 流石昔!」
……妙な納得の仕方やな。
まぁ何にせよ、楽しそうで良かったけども。
「あ、これ綺麗」
表情を輝かせるその様子に目を細めていれば、少し離れた場所で夕美が何かに顔を寄せる。
それは黒漆地に淡い薄紅色の花が描かれた、櫛。
「それはあかんで」
「わかってますよっ、何か高そうだし。見てただけですー」
「櫛は『く』るしく『し』んどいとかけて所帯を持つことを表すんや。男が女に櫛を贈るんは夫婦(メオト)になってくれっちゅう意味になる」
「……へっ!?」
目を丸くしてこっちを向いた夕美に俺はゆっくりと口角を上げた。
「……買うてやろか?」
「はっ? や、あの、遠慮させていただきます……」
おどおどした笑みで申し訳なさそうに首を傾げる様子が面白可笑しい。
「そら残念や」
「全然残念そうじゃないですけどね……」
顔を綻ばせた俺をじとりと半目で睨む夕美を視界の隅に入れ、俺はじっと目の前の櫛を見つめていた。
……懐かしな。
なんやついこの前のよな気がすんのに、いつの間にかこない時が経ってんな。
ほんま……懐かしわ。


