へらりと笑うその顔は、張り付けられた笑み。
まるで無意識に手に触れた物を掴んでいた、というような素振りの夕美は慌てて袖を離すと再び町並みへと視線を移す。
その目は、どこか複雑に憂いを帯びていた。
……何でもないっちゅう顔ちゃうやん。
やはり直面すると期待や不安、その他色々なことを考えてしまうのだろう。
快活な様子からつい忘れがちだが、これは帰れる確証もないまま此処に一人、なのだから。
一人……か。
視線を落とすとそこにあるのは鼻と同じく赤く染まった小さな手。
……。
思わず伸ばしかけた手ははたと止まり、宙を掴んだ。
脳裏に浮かんだのは
『……烝くん……』
つぶらな瞳の割れた顎。
……これは、そんなんやないからな。
時を越えるという壮大な迷子になった精神的な幼子であるこいつに手を差し伸べる、
ただ、それだけや。
……て、何であいつに言い訳せなならんねん!
あの割れ顎め、いらんことを言いよってからに。
昨夜の島田とのやり取りを掻き消すようにふるり頭を振り、俺はパッと夕美の手をとった。
「あ、あの? 今日は別に大丈夫ですよ? 迷子には」
「寒いんやろ? おにーさんが温めてやろ」
少しでもその拠り所になれればとの思いを込めて。


