「よっこいせ、と」
「あ、またそれ! もー折角見た目若いんですからもっと軽やかにいきましょうよー」
「……口癖やねんもん」
しゃーないやん……。
「まぁ、でもこれは確かに大変そうだったし仕方ないかも」
と、少々呆れたような夕美の視線の先には、今俺が床に下ろしたばかりの林五郎の姿。
林檎よろしく真っ赤な顔で気持ちよさげにぐうぐうむにゃむにゃと眠りこけている。
「お酒弱いなら飲まなきゃ良かったのに……」
確かに、こいつは昔から強い方ではない。
けれどたかだか一合くらいでこうなる程弱くもない。
では何故か。
俺の酒をこっそりとこいつの猪口に注ぎ続けたからだ。
酔っ払いは誤魔化しやすい。
合間に夕美に注いでもらったり自分でも注いだりしているうちに、どれだけ飲んだかなんてわからなくなるもの。
結果計三合。安酒は酔いもよく回る。
すっかり歩けなくなったこいつを背負って帰ってくる間に、案の定夢の中へと旅立ってくれた。
これで当分起きるまい。
「ま、寝かしといたらそのうち酔いも覚めるわ」
熟睡中のそいつにかいまきを掛け立ち上がると、にこりと夕美を見下ろす。
「……お品書き、ちゃんと読めたみたいやな」
林五郎を見た時は正直もしやと思ったが、あれが来るまではちゃんと勉強していたらしい。
「あ、はいっ! 気付いてたんですねっ。まぁ料理の名前は予想がつきやすかったからかもしれませんけど」
へへへと照れと自慢と謙遜が入り交じったような笑みを浮かべる。
まるで誉めてもらえるのを待っていたかのような様子の夕美に自然と笑みが零れた。
その期待に答えるべく俺は目を細め、頭をぽんぽんと軽く叩く。
「ほな、良い子で勉強しとったご褒美や。出掛けるで」


