とんっ とんっ とんっ
決して滑らかとは言えない音を聞きながら、俺は畳の縁に座り土間に立つ夕美を眺める。
こうして過ごすのも今日で最後。
故に今日一日全てを一人でこなしてもらおうと、俺は此処で朝餉の仕度を温かく見守っているという訳だ。
しっかし……。
とんっ とんっ とんっ
……ゆっくり過ぎて眠ぅなってくるわ……。
とんっ
「った!」
「ちょ、大丈夫かっ?」
つい俯いて欠伸を噛み殺していると包丁の音と一緒に夕美の短い声が聞こえてきて。
慌て立ち上がるとその手を取った。
「慣れたと思って調子に乗っちゃ駄目ですね」
あの早さで調子に乗っとったんかい。
へへへと苦笑いする夕美の人差し指の先には赤い筋が走り、ぷっくりと膨らんだ血が今にも滴りそうになっている。
「少し切れただけやな。舐めときゃ治るわ」
あの、とんっ、ってな感じでざっくりスパッといってたらどないしよか思たわ。
流石の俺も縫合までは出来へんで……。
「……あ、あのっ、烝さんっ」
「ん?」
「指っ、もー大丈夫ですからっ」
「……ほーか」
何故かそわそわした夕美の訴えに、くわえていた指を口から出す。
念の為ぐっと押して出血量を確認するともう一度軽く吸ってから手を離した。
「烝さんて結構意外なことをさらっとしますよね……」
これまた何故か微かに頬を赤らめた夕美がじと目で俺を見上げるが。
「? 何か変やったか?」
「そーゆー系ですか……」
どーゆー系やねん。
……昔からこうすんのが普通、やん?


