……。
「……どしたんですか?」
すっと表情をなくした俺を、夕美は不思議そうに見上げる。
「や、ちと知り合いがおった気がしてんけど人違いやったみたいやわ。さーそれよか早よ帰ってさっきの続きすんでー」
「う゛、やっぱりぃ……」
にっこりとその背を押し、戻りを促す。
僅かに前をゆく夕美の後ろで、俺はそっと背後に意識を巡らせた。
……誰か、見とったな。
既にそれは人混みに紛れたのか、そこにはいつもの喧騒があるだけ。
ほんの一瞬、背に向けられていた視線。
それは殺気ではなかった、が。
明らかに町人のものではない、ねっとりと絡み付くような意図的な目で。
あの異国風の格好ならいざ知らず、今の夕美にそれが向いていたとは考え難い。
俺に、と言うのが妥当なところだろう。
それならば人物の特定には至らないものの、考えられるは一つしかない。
……嫌な予感がするわ。
一人密やかに溜め息をついて、俺達は通りの角を曲がった。
冷々とした空の高くに散りばめられた星達が瞬く。
副長室からの帰り。
屯所の屋根に上がった俺の視界の先に、大きな影が佇んでいた。
……出た。
その巨躯からは想像出来ない程に身軽だから驚く。
何故か仁王立ちに構えるその姿に一抹の不安を覚えながら、ゆっくりとそいつに近付いた。
「何か用か?」


