こんな素性の知れんの屯所には勿論連れてけんし、俺かてまだ仕事の途中っちゃ途中や。こんまま奉行所に連れてくんがいいんやろけど……。
『……む……ちゃ……』
気になるのはあの言葉。
あれはなんやったんやろか。
視線の先では女が血の気のない肌に所々掠り傷を作り、力なく横たわっている。
こんな女知らん、あれは俺を呼んだんやない。
あいつとは……違う。
ざわつく心にそう言い聞かせても、ぐるぐると頭の中に何度も響いてきて。
……。
「ーーっ! あーもおっ!!」
兎に角、俺もこいつもこのままやったら風邪ひく! 凍死する!
せやから移動させる。
そんだけや。
ぶつぶつと独りごつと、薬箱を腹にかけ女を背負う。
確か近くに空き家があった筈や、取り敢えずそこで休ませるか……。
脱ぎ捨てておいた羽織を目立つ女の着物を隠すように上から掛け、漸く俺は歩き出した。
「……さっぶ!」
濡れた着物を脱いで可能な限り固く絞り梁に干すと、褌一丁で囲炉裏にあたる。
何が悲しゅうて冬の京でこないな格好せなならんねん!
拷問……拷問や……!
カチカチと寒さに歯を鳴らし、ちらりと視線を横にずらした。
………。
うん、俺は変態やない。
これはれっきとした人命救助や。
長いこと冷たい水の中におったこいつは体を暖める必要がある。
……無論、濡れた服を着せたままっちゅうんは言語道断。
俺はそれを遂行したまでにすぎん。
これは、人・命・救・助、や。


