どうやら兄弟であるらしい二人のじゃれ合う様子をぽかんと見つめて動かない少女に、兄である少年がはたと気が付き小首を傾げる。


「ちょっ、ゆ、夕美!?」

「へ? お、俺なんか変なこと言うたっ!?」

「あ、ごめ……何でかな、何か凄く嬉しくて」


その丸い眼から伝う一筋の涙に慌てた二人は、次に放たれた柔らかな笑みに顔を見合わせ、照れくさそうに頭を掻く。


そんな何気ない仕草もとてもよく似ていて。
もう少し年が近ければ、きっと彼らは双子に見えるのだろう。



「……つかそれなんなん?」


むず痒い空気を変えようとするが如く、兄は少女が握り締めた物へとさらりと話を変える。


「へ?」


そこにあったのは艶やかな塗の櫛。


買った記憶などないのにじわりと胸に広がるのは、先程目の前の兄弟を見た時のような懐かしい温もり。


その感情のままにそっと描かれた紫の花を親指でなぞった少女を、つんと甘い痛みが襲った。


「夕美?」


目の前の少年が名を呼ぶ度にひりひりと心が疼く。


触れたいと願ってしまう。


その理由を、少女は知らない。



「何でもない! それよりつとむちゃん、どっかでゆっくり話そうよ。あんまり時間もないし」


初恋の人だから、と己を納得させて、少女はその不思議な櫛をそっとポケットに仕舞った。




兄と弟、そして少女が賑やかに橋の上から去り、雑踏へと紛れていく。


通りの脇に植えられた街路樹から彼らを照らす木漏れ日は、キラキラと優しく輝いていて。


それはまるで再び動き始めた彼らの刻を祝う、花弁のようだった。

















*** end