久々にまともに話すのがこんな時だとは思いもよらなかった。
「阿呆兄何やっとんねんボケ!」
苦笑いする俺とは対照的に、慌ただしく隣に膝をつくと乱暴に合わせを開いた林五郎に思わず眉を潜める。
「ちったぁ優しいせぇ……ちゅうか阿呆はお前や、何で……おんねん」
「副長に頼み込んだんや! ほんなら案の定この様や! ヘマすんなや阿呆が!」
怒鳴りながらもその顔は今にも泣き出しそうで。
「すまん」
素直に言葉が零れた。
「そんなんええし阿呆!」
「自分も、そんなんええからちと話聞いてや」
止血しようとする林五郎の腕を掴むとその動きが止まる。
「阿呆っ……」
「ええから聞き」
もう、今しか言えんのや。
眠くて眠くて、今にも寝てまいそうなんやから。
「……夕美は大丈夫やで」
「な、にを」
「元気にやっとる、絶対に。やから心配、せんでええ」
これだけ言えたらもうええわ。
痛みも息苦しさも、もうない。
身を包むのはふわふわとした心地よい微睡み。
「お兄!?」
林五郎の声も子守唄のように聞こえる。
頼んない兄貴ですまんな。
かわええとか言うたら怒りそやし、大切やーとか言うんはやっぱこっぱずかしいさかい。
最後に一個だけ。
「来てくれて、おおきにや」
自分の顔見れて、ほんまは嬉しかってん。
これでもう、俺も心置きなくあいつんとこ往けるわ。
なぁ?
琴尾──……