「なら男の人もそんなに早いんですか? 烝さんも実はお嫁さんがいたり……とか?」
首を傾げ、夕美は只率直に湧いた疑問をぶつけてくる。
その澄んだ眼は純真無垢そのもので。
まるで全てを映す、水鏡のようだった。
「……男は色々や。女より数が多いからな、所帯持たん奴も多い。あの部屋かて俺ら以外誰も住んどらんやろが」
俺に向くそれが妙に居心地が悪くて。
敢えてその額をつついて言えば、その目はきゅっと一瞬、瞼を落とした。
「まーそうですけどもしかしたらって思って。でもっ、なら私に行き遅れーとか言ってる場合じゃないですよっ、烝さんこそ早く結婚しなきゃっ」
「けっこん?」
「お嫁さん貰わなきゃってことですよー」
鬼の首を取ったかのように得意気に笑う夕美に、俺もまた笑みを張り付け乗っかった。
「ええねん、俺は仕事に生きんねやもーん」
「あー負け惜しみー」
「どの口が言うんやっ」
「ひょっ!? ひゅひゅみゅひゃん、ひはいっ」
「何やてー? よう聞こえんなぁー?」
「みょー!!」
だけど、むにゅっと延びた頬で必死に訴えるその顔を見ていれば何故か自然と笑えてくる。
「はは、ぶっさいくぅー」
「むーっ、仕返しっ!」
「ひててててっ!? っ、捻りを加えんな! 実は性悪かっ!」
「うら若き乙女の顔を引っ張るからですよーだっ」
「慎みの欠片も持たん奴が何言うとんねん」
なんて軽口で返すものの、ぺろんと舌を出しておどけ笑う夕美に思わず目を細めた。
今の俺には眩しい程に、明るく前向きなそいつに。
……俺も、ちったぁ見習わなあかんな。


