奉行所の隅、廊下の最奥に位置するその部屋に近付くと、痰の絡んだ苦しそうな咳が何度も聞こえる。
「入りますよ」
少しばかり乱暴に障子を開けるといの一番に感じたのは血の臭い。
「……山、崎さ」
余程苦しいのだろう、胸と口許を押さえ俺を見上げくるその目は赤く、うっすらと涙が滲んでいる。
「喋らなくて結構ですから」
「……っ」
早足で近寄る俺を、沖田くんは声にならない声を発して睨み付ける。
近寄るな。
そう、言いたげに。
頬が痩け、肌は色を失っても、その黒い眼に宿る光は刀を握っていた時の彼を彷彿とさせる程に鋭い。
……頑固やねんから。
それが嬉しくもあり、悲しかった。
「人のこととか気にせんでええねん」
阿呆、と軽くあしらいその背を擦る。
今はこの発作が収まるのを待つしか出来ないから。
何度も続いた咳も、徐々にその間隔が広がっていく。
「口、ゆすぎますか?」
激しく上下していた背が静かになり、呼吸が落ち着いてきた頃合いを見計らって声をかけた。
すると口に手拭いを押し付けたままの沖田くんが、再びキッと俺を睨んだ。
「阿呆は山崎さんの方ですよ。……移ったら、どうするんですか」
その目にさっきまでの眼光はない。
弱々しく困惑し、己を責める負の色だけ。
……阿呆め。
「何を今更」
「っ、わ?」


