以前より彼等から資金の用立てを頼まれていたらしい副長はそれを利用した。


何も知らず、まだ幼い市村くんを使いにやったのも、相手に不信感を抱かせぬようにしながら副長直々の言葉と思わせる為。



『久し振りにゆっくり国事について意見を交わそう』



そんな申し入れに、向こうはすんなりと乗ってきた。


信じていたのか、周りの忠告を聞かなかったのか。


たった一人の従者と共にやってきた伊東参謀は、やはり性根の部分で人が良いのだろう。


国を良くしたい。


そんな思いを、あの篠原が巧く利用したのかもしれない。


そう思えば否が応にも呵責の念が湧き上がる。


今回、監察から選ばれたのは裏の仕事に長けた大石で。俺に与えられたのは隊医として皆の帰りを待つことだった。


局長の妾邸で行われている最期の宴が終わるのを、ただ屯所でじっと待っていただけ。


四つ刻を過ぎれば帰屯する伊東参謀をうちの刺客が狙う。


そして事切れた彼を囮に御陵衛士を誘きだして殲滅を計る。


そこにいるだろう藤堂くんにだけは局長らも温情を示したようだが、そんなもの、どうなるかなんてわからない。


目には目を、歯には歯を。
殺られる前に殺る。


理屈はわかる。


わかる、が、身内のことながらも息苦しさを覚えるのは俺だけなのか。