【完】山崎さんちのすすむくん






音読、訂正、覚え書きを繰り返すこと暫く。


「烝さーん疲れたぁーお腹空いたぁ……」


本を持ったままの夕美が力なく文机に突っ伏した。


その声に視線を窓へと移すと、影はもう日が天頂近くに上っていることを示していて。


まるでそんな俺たちを見ていたかのように、昼九つ(正午)の時鐘が響いてきた。


もうこんな時刻か。


時の移ろいに気が付けば確かに体はすっかり凝り固まっている。


それをコキコキと軽くほぐし、大きく伸びた。


「ーーっ、はぁ。ほなそろそろ飯でも食いに行くかぁ」

「やったー!」


両手を高々と掲げ、目の前の大きな子供は嬉しそうにいそいそと片付けを始める。


そんな夕美に伝えておかねばならないことが一つ。


「口に物入れて喋らんようにな」


やっぱこれだけは譲れんっ。


「気を付けますっ! で、何食べに行くんですかっ?」


……ほんまにわかっとんかいな。


この明るさには毎度毒気を抜かれるわ……。


「せやな、今日は一段と冷えるしおでんにでもしよか」

「わぁいっ! おでんっ!」


既に食べ物のことしか頭になさそうな夕美を連れ、俺は屋台の多く並ぶ通りへと向うのだった。















「おじさん蒟蒻もう一つ! あと大根と竹輪もっ」


確かに口に物を入れて喋ることはなくなった。


隣に立つ夕美を横目で眺め、俺はゆらり猪口を揺らす。


だがしかし。


「お宅の嫁はんよう食べはるなぁ! 見とって気持ちええわ! よっしゃ、お豆腐まけたろっ」


うん、ほんまよう食べよるわ。


甘味噌付けて食べんのが珍しいとパクつくこと十数本。


おでんっちゅーもんは酒と一緒にちまちま楽しむもんなんやで?


んながっついて……。


「嫁ちゃうわっ」


あかん、危うく流すとこやった!