「すみません、此処の床ってよく滑りますよね」


既に立ち上がった彼は俺と目が合うと、ぽりぽりと髪を掻いて恥ずかしそうに笑いを浮かべる。


まだ幼さの残る面立ちでえへへと小首を傾げるのは、此度の江戸での隊士募集で兄と共に入隊した市村鉄之助。


まだ十四という若さ故に副長の小姓扱いとなったのだが。


「貴方程転ける人はいませんけどね。鼻血、出てますよ」

「えっ!? わ! ほんとだ!」


ちとそそっかしいねんな……ちゅうか何でまた顔からいくねん顔から。


「転ける時はちゃんと手を出さないと」

「はいっ! わかりましたっ」


返事だけははええねんけどな……。


元より副長付きである俺が暫く面倒をみることになったのは良いが、今度こそ子供が出来た気分だ。


こんくらいの歳やったらほんまに子供でもおかしないからな。


そんなんと一緒に働いとるとかあれやわ、ちょっぴり歳感じてまうわ……。


「……とりあえず血を止めます。ほら、そこ座って上向いて」

「はいっ」


とは言え、にこにこ顔の市村くんを見ていると気が抜ける、というかどこかほっとする。


林五郎や沖田くん、そして夕美、あの賑やかだった日々を少し、思い出させてくれるから。





「暫くこのまま押さえておくこと。で、何か用があったのでは?」


縁側に腰掛け血止めを施し、やっと本題に移る。


すると市村くんははっとしたように懐を押さえて言った。