それは、今日此処に来てからも話の合間に何度もしていた咳と変わらないように聞こえた。


「大丈夫ですか? そろそろ部屋へ……」


それなのに、こほこほと咳き込み続ける彼の背を擦ろうと伸ばしかけた手が、止まる。


視界に映った僅かな赤に、意識を奪われてしまったから。


っ、血ぃか!?



「沖田助勤!?」

「……こほっ、大丈夫、です。もう、収まりましたから……」


途切れ途切れに話す沖田くんの咳は確かに収まりつつあるようだが、これでは到底大丈夫とは言えない。


今まで現れていた症状は熱と咳、あとは倦怠感といったものくらいだったはずだ。


それがとうとう喀血──これは労咳において死の宣告。


病がかなり進行している証だ。



「とりあえずその布団に横になってください。今湯を……」


一旦落ち着いた様子の彼に、そう言い残して立ち上がろうと腰をあげた時、


「待ってください!」


強い力が手首を掴んだ。


振り返った先にある黒の双眸はゆらゆらと不安に揺れていて。


「……すみません、少しだけ、此処にいてくれませんか?」


はっとしたように手を離して胸に抱えると、沖田くんは俯いたまま小さく呟いた。



……震えて……。



ここにきて漸く彼が見せたそのほんの僅かな甘えは、胸を抉る程に切なくて。


……糞っ。


そのやるせなさに、俺はただグッと奥歯を噛み締めた。